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それ以降は何も考えずに、ただぼーっとしながら壁を眺めていた。
やることがないと、どうしても思考が単調になってしまうものだ。
鉄格子をアトラクションに見立てて俊敏な小人を走らせたり、天井の模様から何らかの紋様を読み取ったりして、とてもつまらない。
「武器作りてぇなぁ……」
がっくりと肩を落として、カナミが指を壁に這わしている。
傍目からは恋い焦がれる乙女のようにも見えた。
カナミは三度の飯よりも武器が好きで、極端に言えば呼吸よりも武器製造を取るほどの武器マニアだ。
王国の禁断書庫に進入したのも、禁止武器という都市伝説を聞いて衝動的にやってしまっただけ。
はっきり言ってしまえば、武器の製造過程に多大なる興味があるのであって、完成品をいつまでも持っているようなことはしない。
どこで誰が使っていようが、どんな悪事に利用されていようが、カナミには興味が無いことだった。
誰に売ったか、ということはおぼろげながら覚えている。
だからこそ王国はカナミを釈放して、回収作業の先陣を切らせたのだ。
しかしそれは一年以上も前の話。
その持ち主が既に変わっていたら、カナミとしても手の打ちようが無い。
「おい聞いたか? あの小隊長が旅に行かされるらしいぞ」
コツコツという足音が二つ。
そして愉快げに笑う男の声が聞こえてきた。
留置所の中で私語をするなど言語道断ではあるが、どうやらまだ新兵であるようだ。
そこらへんの意識がまだ低い。
「ピンキー隊の?」
「そう。 いつも窓拭きとか床掃除とかさせられてるやつ」
そこでカナミは少しばかりの興味を抱いて、顔をゆっくりと上げたのだった。
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