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「……何の話だ」
「とぼけんなよ。 国王が窓際部隊の小隊長に馬車をやるはずないって」
ジルバートはそっぽを向いた。
どうやら彼は嘘が下手らしく、見るとひたすらに怪しい挙動を繰り返している。
窓際部隊とはつまり、王国の警備隊の中でも隅の方に追いやられてしまった部隊のことだ。
技術不足、もしくは組織運営の中で調和を乱したりする者を俗に言う窓際部隊に送り、雑務などをさせてこき使う。
技術の第二世帯と呼ばれた世代出身者のジルバートであるのだから、戦いの技術不足であるとは思えない。
「見てりゃわかる。 どうせ剣術を磨けだの、基礎鍛錬をしろだの、古臭い考えを押し付けてたんだろ」
正しくは昨日の若い新兵の話を聞いたから知ったのだが、それは言わないでおいた。
カナミに指摘されても、頑なにジルバートは自身の考えを変えようとはしない。
「どんなに武器の性能が上がっても、最後に頼りになるのは自分の技術だけだ。 それを怠れば戦場で命を失うことになる」
「時代は変わってんだよ。 自分に合った武器を使えば負けることなんて無いんだから」
そこで二人の会話は終わった。
この議論はもう長年に渡って繰り返されてきた答えの出ないもので、どちらが正しいのかは断定出来ない。
カナミも譲らなければ、ジルバートも譲らない。
何の実りも無い、不毛な議論だ。
ジルバートは馬車を出て、二頭の馬の手綱を手に取り、公女が待つ王宮前へと走らせる。
カナミは相容れない考えを鼻で笑い、牢獄の中でゴロンと寝転がった。
内装は古い馬車だが、外壁は綺麗。
小隊長はずいぶんとペンキ塗りが上手であるようだった。
しばらくして、カナミが鉄格子の奥から声を出す。
手綱を握っているジルバートは馬車の外にいるためか、どうにも声が届きにくい。
聞きたいのは、どうして多少の無理をしてでも馬車を入手したのかということだ。
「護送用の馬車が流れていたのは偶然だ。 買い手が付かないから、ずいぶんと安く買えたよ」
「そりゃお前、一般人がこんな檻付きの馬車なんか買うかよ。 じゃなくてさ、なんで馬車なんか買った?」
微妙な話題逸らしにも嵌められず、カナミはそれについて言及していた。
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