首都カンザスブルグ

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公女はまず、馬車があることに驚いていた。 獄中のカナミからは見えていないが、彼女の服装は昨日と何も変わっていない。 薄汚れたローブに身を包み、今日はそれにフードも被っている。 そこで初めて、ジルバートは今朝は少し冷える朝だと気が付いた。 「まあ、なんて雄々しい馬なんでしょう。 お名前は?」 澄んだ青い瞳で喜びながら、彼女はジルバートに問いかけた。 声だけは聞こえているカナミ。 牝馬だったらどうするんだ、なんて皮肉を心の中で漏らしている。 ジルバートはそこで口ごもった。 昨日買ったばかりであるのだから、馬の名前なんか決めていないのだ。 それを察したカナミが馬車の中から大きな声で助け船を出す。 「ナイフとダガー!」 美しい栗色の毛並みを持つ二頭の馬も、まさかそんな適当な名前を付けられるとは夢にも思っていないだろう。 馬車の中から聞こえた声に驚き、公女は少しだけ足を後ろへ運んだ。 恐る恐る中を覗くと、そこにいたのはつまらなそうに壁にもたれかかっているカナミ。 昨日拘束されていた男だとわかると、公女はすぐに笑顔に戻る。 「変わった名前ですね。 さしずめ、切れたナイフに折れたダガーというところでしょうか……」 公女が発した意味のわからない言動に、困惑してしまう。 「……ささ、お乗りください。 あまり時間はありません」 左遷された小隊長、ジルバートが公女を急かす。 中に入ってきた公女ステリアットは、悠然とした立ち振る舞いでカナミに手を差し伸べた。 どうやら握手をするつもりであるらしい。 鉄格子の外と内で、最上級の人間と最下級の人間がその手を握り合った。 「ステリとお呼びください。 国を抜け出してきた身分ですから、余計な気遣いは一切無用です」 無法者の三重線、カナミがどうでも良さげに返事をする。 「そいつはどうも。 よろしくね」 どこかで逃走するのだから、所詮は一時的な馴れ合いだ。 あまり深く関わる必要も無い。 たった三人。 それも国にとって必要も無い三人の、途方も無い旅が幕を開けた。
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