特に何も無い町

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大国、カンザス王国。 西部、中部、東部の三つに山脈で分けられた国の名称だ。 人口はおよそ十万五千人で、その半分が国家の中枢である中部地方に集中している。 首都カンザスブルグは政治経済の中心として発展した都市であり、その人口密度は全国でも頭一つ飛び抜けていた。 人間が生活するのに発展するものとして、大まかに分けると三つある。 その一つが政治経済。 そしてそれが主だった発展を遂げたのが、カンザス三大都市の一つ、首都カンザスブルグだった。 無法者カナミがこれから目指している場所は東部地方。 山脈を越えた先にあるカンザス三大都市の一つ、産業都市アストポリスだ。 政治経済、産業、そして宗教が発展を遂げ、その三つは見事にそれぞれの地方へとバラけている。 今のカンザスがあるのは、これから目指す産業都市のおかげと言っても良い。 飛行船製造や武器の原料となる鉄鉱石の加工、機械の基盤となる歯車など、物作りのベースとなる物はほとんどがそこで作られている。 職人が憧れる産業都市アストポリス。 実はカナミも少しばかり楽しみにしていた。 時刻は明朝。 旅を始めてから既に三日が経っていて、計画通りならばそろそろ町に辿り着く頃合いであった。 どうやら昨夜は雨が降っていたらしく、朝露が日光を受けて輝いている。 できるだけ目立たない木々の間に馬車を止め、一晩を過ごした。 馬車の屋根からは木漏れ日のように光が差し込み、それがカナミの眠りを阻害する。 自身にかけていた毛布は既に眠りながら剥ぎ取ってしまったらしく、無造作に投げ出されていた。 「ああ……体が痛い」 固い床で眠っていたためか、主に首回りが動かしにくい。 ゆっくりと体を起こして、大きな欠伸と共に馬車内を見渡した。 誰もいない。 こういう時の疎外感は抗いようがない。 そして次に気が付いたのは、着用している服が異様なほどに濡れていることだった。 水でもかけられたのかと思ったが、どうやらこれは雨漏り被害が原因らしい。 上を見るとまだ少し湿っていて、床には水たまりができていた。
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