特に何も無い町

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物珍しそうにまじまじとカナミを見ていたステリだったが、その時とあることに気が付いた。 「まあ! 体が濡れていますよ!」 慌てた様子で自身のカバンから様々なものを引っ張り出し始めた。 実に女の子らしいものばかりが出てくるが、これもおそらくは自分のものではなく、王国に旅の一式として持たされたものだろう。 ところどころにカンザスの刻印が施されていて、どれもこれもが高価な代物ばかりだ。 その中から一つ、小物入れのような薄い水色の箱が飛び出してきた。 鍵がしっかりとかかっておらず、投げ出された衝撃で中のものが顔を覗かせている。 化粧道具、手鏡、金属製の髪留め、そして真白の宝玉をあしらえたネックレス。 とても白濁とした宝玉だ。 宝玉加工の経験もあるカナミだが、その宝玉だけは見たことが無かった。 感覚としては、色違いの琥珀に近い。 気になりはしたものの、カナミはそれよりも金属製の髪留めに注目してしまう。 それさえあれば錠前を外して脱走出来る。 「使ってください!」 投げ付けられたふわふわのタオルを、カナミは頭に被せた。 やはりそのタオルにも王国の刻印が隅に刻まれていて、どうにも使うのを躊躇ってしまった。 「雑巾でいいのに」 「……女性物しか無いのですけど、着ますか?」 着替えは欲しいが女性物は着たくない。 闇に上手く紛れられるようにと特注された黒いローブが、カナミに向かって差し出された。 とても大きなローブだ。 大男のジルバートでもギリギリ着られそうな代物で、ステリが着ようとすればおそらく裾を引きずる。 「うわこれ、お母さんが着るやつだろ」 ゆったりとした丈で、保温性に優れたローブだった。 これならばお腹が膨らんでも大丈夫そうだ。 色が黒いからまだ一見ではわからないが、服の正体に気が付かれれば変態でも見るかのように扱われるに違いない。 どのような意図があってこんなものを持たされたのかは不明だが、不遇な扱いを受けている彼女であるから、どうせ適当にいらないものを持たされたのだと予想した。
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