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せっかくの申し出ではあるのだが、カナミはそれを拒否した。
タオルで体を拭いているカナミを満足そうに見たステリは、のんびりとカバンの中を片付けている。
体を拭きながらカナミは思う。
ジルバートの中で計画を立てているはずのこの旅も、実はとんでもなく無計画なもの。
東の都市へ向かうという目的を告げられた他は、特に何も決まっていない。
カナミに至っては武器すらも持たされていないのだ。
道中でどうにかしなければ、逃げたところで死ぬだけだろう。
「ステリ様。 昼頃には町へと着きそうです」
ひょっこりと入り口から顔を出したジルバートが、ステリを名指しして告げた。
馬の餌やりが終わったらしく、大きな餌袋を馬車内に片付けている。
そこでカナミは猛烈に抗議した。
「おい! おいジルバート! 見ろこれ、雨漏りしてるぞ!」
「うん?」
天井を指差しているカナミに近寄り、目を細めてまじまじと見つめている。
護送馬車という特性上、あまり内部に光は入らず、目を凝らさないと暗い部分は良く見えない。
関係無いのだが彼は最近老眼の症状が現れ始めていて、近くの物にピントを合わせにくい。
腰痛も酷くなってきたし、前線での戦いは退かないとならないのかもしれない。
「ああ、本当だな。 そのうち直しておくよ」
「そのうちかよ……」
ジルバートの中で目的の優先順位が変わっている。
武器回収よりも公女の護衛が優先となっていて、東の都市にて安全な場所にステリを預けることを目的としていた。
カナミは乾いている場所を探して寝転がった。
そろそろ外へと出たくなってきたが、道具が無ければ出ることはできない。
少し前に思い切り壁を蹴飛ばしてみたが、馬車はビクともしなかった。
起こったことと言えばジルバートに怒鳴られたくらいだ。
貧弱な体であるカナミには貫けそうにない。
そういう時はジルバートの鋼のような体が羨ましく感じてしまう。
そんなこんなで適当にあしらわれた後、のんびりと朝靄の香る野原を、馬車は進み始めた。
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