特に何も無い町

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ジルバートが欠伸をしながら馬の手綱を引いている。 たまにすれ違う馬車は首都へ商品を運ぶのだろう。 整地された地面の左側を通り、右側ですれ違う馬車に乗る商人と挨拶を交わす。 果てしなく続く一本道の脇には花々が色とりどりに咲き乱れていた。 これは人によって作られた景色だ。 首都への道は花が咲いていて美しい光景が広がる、なんて謳い文句が旅行記には綴られている。 確かにそれは嘘ではない。 ジルバートが子どもの頃にはまだこんな花は植えられていなくて、地面も整備されていなかった。 もっと木が生い茂っていて、馬車がすれ違うことも困難なほどに道は狭かった。 自然を潰して、自然を作ったのだ。 全ては首都への道の色合いを良くするため。 確かに道は通りやすくなった上に、乱雑に生えている木が無くなったから治安は良くなった。 一概に否定は出来ず、かといって肯定も出来ず。 ジルバートは一人、そんなことを考えている。 馬車の中では興味深そうにステリが、カナミの話に聞き入っていた。 公女としての教養は確かにあるステリだが、それはあくまで教科書に書かれているものだけだ。 その背景にあることは知らず、武器に関しての知識であればカナミの方が優れている。 「私達が第三世代? 第二世代ではなくて?」 「そう。 第一世代ってのが国に隠されてるから」 武器の発展を世代ごとに分けたもので、一般には公表されていない第一世代。 どうやらそこら辺の事情は各国共通であるようだった。 カナミが禁止武器を作ったから投獄されたのは、彼女も既に知っている。 五種類の武器を作り、それを売り捌いて金に換えたおかげで、一時はとても裕福だった。 「教科書に載ってる第一世代は、歴史的には第二世代な訳。 で、歴史的な第二世代ってのは……」 「技術が重視された時代でしょう? 剣術や槍術もそこで基盤を作ったと書かれていました」 流石に教科書に載っている事柄であれば知っているようだ。 少し誇らしげに、ステリは語っていた。
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