特に何も無い町

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そんなわけだから、この町で何か目新しいものを見つけるのは困難を極める。 「町自体は活気に満ちております。 旅の品を再び揃えるには丁度良いでしょう」 苦し紛れにジルバートはそう言った。 出来ることであれば、あまりこちらの国を知らないステリに観光案内などをしてやりたいが、残念ながら観光する場所が無い。 首都から出てきた人にとって、首都の下位互換である町には興味など湧かないものだ。 「なるほど。 して、グルメの方は?」 「……ん? はい?」 若干耳を疑いつつも、ジルバートが咄嗟に旅行記を手に取って調べ始めた。 馬車操作を片手間に行うのは警告の対象となる。 これは実に危ない行為だった。 しかしジルバートも小隊長というだけあって、それなりに馬の操作が上手い。 とても器用に片手で動かしながら、ペラペラと旅行記を捲っている。 「あえて言うのであれば果実が有名ですが……ステリ様のお口に合うかどうか……」 「いえ、そういうのではなくてですね。 私が言っているのはーー」 ステリの言葉を途中で遮るように、馬車は一軒の家屋に横付けした。 それは赤いレンガが組み立てられているオシャレな建物で、それなりの敷地に三階まである立派な宿屋だ。 入り口の上にはひょこっと看板が飛び出ていて、そこには“ハンパの宿”という名称が書かれている。 旅行記にはまあまあの宿と書かれていた。 宿代もお手頃で、食事もほどほど、泊まり心地は中の上。 ただ、予約などしていないから泊まれるかどうかはまだわからない。 とにかくジルバートは、しらみつぶしに宿屋を探すつもりでいるようだ。 「どういうグルメを?」 「いえ……結構です」 ホッとしたような、残念であるような、ステリは複雑な表情をしている。 彼女の中にある葛藤が何を示しているのか、庶民であるジルバートにはわからない。 「カナミ。 お前はそこから出さんからな」 釘を刺すように、カナミを指差しながらジルバートがそう告げた。 やや鬱陶しそうな顔を見せたカナミは、何も言わずに手を払っていた。 さっさといなくなれ、そんな意味合いを孕んでいるようだ。 「あ、飴買って来てくれ。 ジルバート」 背中越しにそんな言葉を吐いたカナミは、のんびりと昼寝の準備をしている。 気にせずに馬車から降りていくジルバート。 そしてステリは何だか不安げな顔で、両者の背中を交互に見つめていた。
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