特に何も無い町

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入り口へと歩きながら、ジルバートへと語りかける。 そんなステリの表情はまるで二人の兄弟の喧嘩を心配そうに眺める親のようだった。 一番若い彼女がそんな顔をしてしまうのも無理はない。 カナミもジルバートも仲が悪い訳ではないが、仲良くするつもりがないのだ。 「もう少し歩み寄れないものでしょうか……」 ステリが心配そうな声を出している。 旅が始まってから、男二人は業務的な会話以外は一切行っていなかった。 「我々は出会ったばかりですから」 「それはそうなのでしょうけど……カナミに至っては私にですら信頼を向けてくれていないように感じます」 その言葉を聞いて、ジルバートは宿屋の入り口付近で足を止めた。 「ステリ様。 あの男の信頼を得ることは不可能です」 最終刑罰者が人を信用することはない。 それ相応の罪を犯して、それ相応の報いを受けた者たちは、永遠という長い時間に渡り生き地獄を味わうことになる。 それを強いているのは人間だ。 彼らは人間を恨むようになり、やがて心が蝕まれ、不信という疾患に侵されていく。 優しく歩み寄っても利用されるだけ。 厳しく指導しても、それは左の耳から右の耳へと抜けていく。 カナミとて例外ではない。 「ですがこれからは力を合わせて行かなければならない仲ではありませんか。 カナミは重罪人かもしれませんけど、たかが武器を作っただけでしょう?」 たかが武器、されど武器。 武器を持つことが当たり前の世に生まれているステリには、それの異常性に気が付いていない。 ジルバートは目を瞑って黙り込んだ。 国民が武器を持っている理由は自身の防衛にある。 己の身を守るために持っているのが武器で、それは決して人に向けてはいけない。 というのが建前だ。 そんな建前があるからこそ、武器という非常識な存在が成り立っている。 既に平和な国であるのなら、武器など生まれるはずがない。 既に平和な国であるのなら、平和を祈るための神など生まれない。 平和ではない国に生まれたのだから、たかが武器という発想に辿り着いてしまう。 ジルバートは頭を振り絞って考えてみたが、ステリを納得させるほどの理由は思い浮かばなかった。
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