特に何も無い町

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宿屋の扉を開けた先では、それなりに広いエントランスが出迎えてくれた。 ここだけは天井が無い吹き抜けのような造りとなっていて、二階部分の窓からはお日様の光が差し込んでいる。 待合室も兼ねているらしく、ソファの脇には今日付けの新聞が備え付けられていた。 ステリがフードを被り、そのソファへと歩み寄る。 テーブルの上にある花瓶には青い薔薇。 この世界において平和の象徴とされる青い薔薇は、どこの国においても共通の認識であることがステリにとって嬉しかった。 「二部屋、空いているだろうか」 「はいはい。 お待ちくださいね」 離れた場所でジルバートが部屋の手配をしている。 手慣れた手つきで宿帳を捲る女は、フードを被るステリを不思議そうに見つめていたが、そのうち詮索を止めていた。 ステリが新聞を読んでいる。 一面にあるのは武器製造組織の売り上げ計上にて不正が見つかったとの記事だった。 さらに進んで読んでいき、ページを捲ってみても、自分のことは見つからない。 これをどう捉えるのか、ステリは一人で眉を顰めた。 ヴィスカリア公国の御家騒動については、新聞にも載っていた事実だ。 そのためこの事柄はカンザス全土に知れ渡っているが、その後どうなったのかは誰一人知らされていない。 ステリもそれは同様だった。 公国にとっての王ーー大公の座を巡っての争いであったのだが、元々継承順位の低いステリにはその座には興味が無い。 数人の兄弟姉妹によって行われた争いも、既に終わっているはずだ。 彼女の中でおおよその見当はついているものの、どうにかして確証が欲しい。 新聞の隅々まで目を向けてみるが、その辺りには触れられていなかった。 「あらま! 首都から来られた方ですか!」 宿屋の女将が驚いたような声を出した。 どうやら部屋を取れたらしく、ジルバートが宿帳に記入している最中のことだ。 大きな声で奥にいる宿の主人の名前を呼んでいる。 呆然としているジルバートの元へ、一人の男が慌てた様子で駆け寄ってきた。
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