特に何も無い町

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たまたま王宮の隊長服を着たジルバートが現れたものだから、カンコーは王宮からの支援だと勘違いしているのだ。 「いやいや! 私どもに町を変えるような力はありません!」 「またまたご謙遜を……おい誰か! ジルバート殿の馬車を片付けてこい!」 カンコーが大きな声で召使いにそう命じた。 反射的にジルバートはその召使いへと叫ぶ。 「男が一人乗っていますが、無視してください! 決して話しかけられても、返事をしないように!」 「おっ、このお話を受けていただけるので?」 「いや、その、そういうわけじゃ……」 片付けを許容するということはつまり、この宿屋に泊まるということ。 泊まるということは、町興しの話を受けなければならない。 どんどんと断れない雰囲気になってきた。 もともと頼み事を断れない気質である生粋の軍人ジルバートには、断るという言葉は口から出てこない。 カンコーにとって、もはや王宮の者であれば誰でも良いのだ。 彼から見てジルバートというのは屈強な戦士に見えるし、頼り甲斐もある。 そこらの若い兵士に比べて責任感もありそうだから、初見で頼み事をするにはもってこいの人材であった。 「いやらしい話ですが……受けてくださるのでしたら宿代は頂戴致しません」 「それは……なんとも……」 その申し出が後押しとなり、ジルバートは渋々といった表情で引き受ける事となった。 依頼内容は町興しの起爆剤を作ること。 この町ならではの特色を作り、新たな観光資源となるものを生み出さなければならない。 頭の固いジルバートには難しい話だ。 カンコーが様々な資料をテーブルに並べ、ジルバートへと見せている。 宿泊者の傾向や、これから町がどうなっていけば良いかなどのアンケートだった。 頭を悩ませる。 ジルバートもカンコーも、資料を読み耽ってばかりで、これといったアイディアは生まれそうにない。 そんな時、先ほどの召使いが困った顔で応接室へと入ってきた。 「あの、旦那様。 ジルバート様の馬車に子どもが群がっているのですが……どうしましょうか」 「はい?」 真っ先に声を上げたのは他の誰でもないジルバートだった。
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