特に何も無い町

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召使いと共にステリが、様子を見るため馬車の元へと現れた。 確かに馬車の外には中を覗き込む子ども達で溢れかえっている。 その馬車の中にも子ども達が座り込んでいて、牢獄スペースの中をキラキラした目で鑑賞していた。 「俺が……白ヤギさんじゃなくて……ヒツジさんだって……言うのかよ」 もちろん中にいるのはカナミだ。 彼が何をしているのか、ステリにはわからなかった。 「これは大変です。 黒ヤギさんからのお手紙を食べてしまった白ヤギさんは、なんとヒツジさんだったのです」 次第に謎が解けていく。 カナミが子ども達に見せているのは、即興で考えているお芝居だった。 ナレーションから配役から、全てを一人でこなしている辺り、どうにも手慣れている。 「はい。 じゃあ、続きは明日」 「えーっ!」 「続きが見たい子は明日もおいで。 お母さんに飴代を貰ってきてね」 見慣れない馬車が道に止まっていたら、好奇心旺盛な子ども達は中をこっそりと覗きに来るものだ。 それをカナミは逃さなかった。 しっかりと子ども達の心を掴み、そしてお芝居を見せることで懐柔し、あわよくば金銭を稼ごうという薄汚い魂胆で暇潰しをしていたのだった。 気になるところでお芝居が終わってしまい、文句を言いながらも子ども達が捌けていく。 その様子を見てステリが中へと入り、召使いは馬車を移動し始めた。 「……何をしているのですか?」 「ん? ああ、子ども達を楽しませることが俺の生き甲斐なんだ」 もちろんカナミの言っていることは大ウソだ。 彼の本当の目的は逃げ出した後の旅費を稼ぐことであるが、それをステリに言うことはない。 馬車が動き出したことを感じたカナミは、そこでこの宿に泊まるのだと初めて知る。 だがベッドに横になれるわけではない。 どうでも良さげに、彼は床にゴロンと寝転がった。
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