特に何も無い町

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馬車が動いている間、ステリは先ほどの話をカナミに伝えていた。 町興しの起爆剤となるものを作ると、ジルバートが受けてしまったことだ。 「ふーん。 あのおっさんじゃ、どうせ古臭いアイディアしか出てこないだろ」 カナミは興味が無さそうだった。 何かアイディアは無いかとステリが問いかけても、彼は無いとしか言わない。 そもそもが急過ぎる話。 これほど特色の無い町であるから、前情報も無しに生み出せるはずがない。 「私なりに考えてみたのですけど、聞いてくれます?」 さして興味があるわけではないが、カナミは起き上がって話を聞くことにした。 彼女が考えたのはキャラクター商売と、それに伴う町の発展。 さすが公女と言うべきか、それなりに勉強しているらしく、現実的と言えなくもない。 「グルメさん、というキャラクターを作るんです」 グルメさん誕生秘話を語る彼女の目はとても熱く、次第に口調にも熱がこもり始める。 「とある国の王女であるグルメさんは高級な料理に飽き飽きとしています。 高いだけでそこまで美味しくない料理など不要なのです」 「うん」 「そこで彼女が目を付けたのは町の汚らしいグルメでした。 鉄板で焼かれたソースの香り、まさしくB級。 貧乏な庶民が食べるグルメです!」 「うん……うん?」 「B級グルメこそが最も優れた料理! 安く、お手軽で、たくさん食べられる! グルメさんはお忍びで現れて、町のB級グルメを集めて審査するという! まさに夢のような企画なのです!」 そこでカナミは気が付いた。 ステリがこの町のグルメについて聞いていたことを思い出しながら、そっと口を挟む。 「グルメさんって自分のことじゃない?」 「はい?」 「ステリって王宮料理のこと、そんな風に思ってたんだ」 高いだけの料理など不要だなんて、公女が言ってはいけないことだ。 焼きそばが食べたいなどと言う公女も見たくはない。 顔を赤くして否定しているが、間違いなくグルメさんとは彼女のことであり、安いグルメを食べたがっているのも事実なのだと感じた。
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