特に何も無い町

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人間の脳というのは不思議なもので、人によっては得意にも不得意にもなる思考の差が存在する。 記憶力に優れ、なおかつ歴史にでも興味を持ったとすれば、国で起きた大事の年号を言い当てることも出来るだろう。 自らの知識に加え、少しばかりの応用力が備わっているのなら、数字を扱う学問の更に奥まで踏み込める可能性がある。 何もそれらは学問に関してのみの話ではない。 勉強が苦手である人間は、脳の力が弱いのではなく、たまたま国が学問だと指定した分野が不得意なだけ。 カナミはまさにそれであった。 文章の中から登場人物の心情を見抜くことも、数字を用いた計算も大嫌いである彼は、まるで一点特化したかのようにその分野だけは得意だった。 人間に向き不向きがあるのは間違いない。 不向きであることを切り捨てて、向いていることを見つけ出すためには多大な好奇心が必要だ。 カナミは前に『この世界で自分に開けられない錠前は無い』と言ったことがある。 この技術は王国の禁断書庫に進入するためだけに培ったもので、あらゆる時代に作られた錠前を全てパターン化させ、何百通りとある錠前の構造を暗記した結果だ。 武器を作りたいという好奇心のみが起こした結果であり、それがたまたまカナミの得意とする“小手先の技術”と適合した。 それともう一つ、錠前外しと適合したものがあった。 人の裏を突く思考。 錠前を外すというのはつまり、何かを護りたいとする思考の真逆を突く発想。 「良いアイディアがあるんだけどさ。 俺に任せてくれない?」 カナミはあたかもそれに協力するような姿勢を見せた。 それを見たステリの顔がぱあっと明るくなっていく。 「まあ! 手を貸してくれるのですね!」 「任せなって。 んでさ、ステリに二つだけお願いがあるんだけど」 人の思考の裏を行く思考。 カナミは常人よりも遥かに悪知恵が働く。
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