特に何も無い町

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ジルバートは宿屋の応接室で頭を悩ませていた。 彼も生真面目な性格であるため、一度頼まれたことはとことんまで請け負ってしまう節がある。 今の彼の中にはカナミや武器回収、ステリの護衛など頭に無くて、どうすればこの町が発展するかを考えていた。 「やはり……難しいですよね」 匙を投げるように書類を投げ出した宿屋の主人カンコーは、諦めのため息を吐いていた。 それでもジルバートは全ての書類に目を通そうと躍起になっている。 こんなものを全て把握しようとすれば一日仕事になってしまうが、彼がそれを拒否することはなかった。 目の前の仕事に没頭することが、彼のこれまでの人生で培った術だ。 地道な鍛錬、地道な情報収集、コツコツと積み上げたものは裏切らないという経験則だった。 その時、応接室の扉が開く。 ジルバートは扉が開いたことにすら気が付かず、カンコーは入ってきた人物に眉を顰めた。 「ジルバートせんせぇ。 なんでこんなおもしろそうなこと、俺に教えてくれないの?」 入ってきたのはカナミとステリだ。 協力的になったカナミを見て、ステリはとても嬉しそうに後を付いてきている。 カナミはジルバートの背後から抱き付いた。 背筋がゾッとするような甘えた声で彼に囁き、それに驚いたジルバートが大慌てでソファから転げ落ちてしまった。 「なぜお前がここにいる!」 叫び声を上げたのはジルバートだけではなかった。 「目の下に三重線……ジルバート殿、こいつは何者ですか!」 「いや……この男は……」 最終刑罰者である三重線の焼印は、ファッションにすらならない人権剥奪の証。 これはカンザス王国を生きる者として、当然の反応だ。 「この際、俺が何者かってのは置いといて……」 「はあっ?」 「町発展の良いアイディアがあるんですよねぇ。 話だけでも聞いてみません?」 この場にいる全ての者の視線を集めながら、カナミは悪戯小僧のようにニヤリと笑った。
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