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伝承級の存在に等しい三重線の言うことを素直に聞いても良いのかどうか、カンコーは迷っていた。
一般的に知らされない牢獄で死ぬよりも辛い目に合わせられる、というのは子どもの頃から聞かされる話だ。
重罪人を示す二重線ですら見る機会など滅多に無いのに、それを越えていきなり三重線と出会ってしまった。
一般人が動揺するのも仕方ない。
止まった空気を動かすように、ジルバートがフォローを入れた。
「……話だけしてみろ」
「さすが! わかってらっしゃる」
カナミが一番最初にジルバートへ絡んだおかげで、無関係を装って馬車へ連行することが出来なくなってしまった。
まるで仲が良いことを示すようなカナミの絡みは、上手い具合にこの場を動かしている。
「首都に良く似たこの町で、首都では出来ないことをする! 首都を脱却するご当地キャラクターを作るんだ!」
カナミは熱さに身を任せてテーブルを叩き、大人二人は勢いに飲まれて声を出せずにいた。
「グルメさん? グルメさんを作ってくれるんですか?」
目を輝かせているステリを無視して、カナミが話を進めようとした。
しかし困った顔でカンコーが書類を見せている。
そこに描かれているのは王様のような格好をした、デフォルメされたキャラクターであった。
名前は首都くん。
知名度の低い、ありがちなキャラクターだ。
「いや……この町には既にキャラクターがいますから」
「いい加減に首都っ子ぶるのは止めろ! お前たちは首都人なんかじゃない!」
何も言い返せず、カンコーが悔しそうに黙り込む。
カナミが提案したのは着ぐるみを作って町を宣伝するキャラクター商売だ。
特色の無い町であるから、それを象徴するキャラクターを作るのは難しい。
首都に良く似た町並みで、首都を皮肉するようなキャラクターを作ることが、カナミの生み出したアイディアであった。
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