特に何も無い町

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というのが建前で、カナミの目的はその先にある。 カナミはまず、裁縫道具と布切れ、着ぐるみを作るための材料を用意させた。 着ぐるみを作るのは手先が器用なカナミか行う。 これこそが彼の狙っていた展開で、裁縫道具を使って自分にとって有益なものを“ついでに”作ってしまおうという魂胆だ。 ステリに頼んだ二つのお願い。 一つ目は馬車内の錠前を外すために、髪留めを借りること。 これにより馬車から脱出して、宿屋の応接室へと殴り込んだ。 そしてもう一つは彼女が持っていた女性物の黒いローブを貰うこと。 カナミが濡れていた時に渡そうとしてくれたローブを、この場で自分用に改造する。 といっても外見は普通のローブのままで、変えるのは内側の方だ。 武器を隠せるようにするだけでなく、様々な道具を収納できるようにすれば、逃走も戦闘も幅が広がる。 武器を扱う技術も筋力も、周りに比べて劣っているカナミは、小細工でもしなければ勝つことなどはできない。 最初のうちはジルバートに回収されてしまうかもしれないが、それでも問題は無かった。 これが必ず生きてくる。 それだけを考えて、カナミは町興しの提案をしていた。 宿泊部屋にて、カナミが床に座り込みながら布に針で糸を通している。 その様子を見ることなく、ジルバートはひたすら資料に目を通していた。 「何を考えている?」 「何って?」 壁際の手すりに鎖を繋げ、カナミは首輪を付けられているが、それも気になっていないようだった。 いつでも外せる、という安心感がそうさせているのだろう。 牢獄の中では何もやることが無かったから、カナミはやる気無さげに過ごしていた。 だが手先を動かす仕事を任された今の彼は、とても楽しそうだ。 「いや……どんな着ぐるみを作っているんだ?」 ジルバートは本当に聞きたいことを隠し、そんなことを問いかけた。 「へへへ、秘密」 「……できるだけまともなものを作れよ」 犯罪者の思考をしているカナミから、まともなアイディアが生まれるとは思えず、ジルバートは不安げな表情で告げていた。
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