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特に何もない町チュートのとあるカフェテラスにて、一人の女がケーキを頬張っている。
見渡すと、そこら辺で男女の恋仲が愉快な会話を嗜んでいるが、彼女の目に入るのは生クリームがたっぷりと乗ったイチゴのケーキのみだった。
長い槍を机に立てかけている。
様々な技巧を施してある改造槍で、小柄な女が振り回すには少しだけ重たそうだ。
女は赤くて短い髪を後ろの方でちょこんと結び、とにかく動きやすい装備を優先させているようだった。
体には軽量化させた最低限の皮製の鎧を身に纏い、その鎧の右胸付近には国の紋様が刻まれている。
ヴィスカリア公国の紋様だ。
ステリと同じ国籍を持つ女が、ぱっちりとした目でケーキを凝視して、緩みきった口元に運ぶ。
「うへへ、甘いぃ……でも、どこかで食べたことのある味……」
すると駆け足気味に走り寄ってくる数人の男。
彼らは全員がガチガチに鎧で身を固めた戦士たちで、持っている武器も様々。
「隊長殿!」
先頭の男が代表して口を開いた。
全員の鎧には同様の紋様が刻まれていて、彼ら全てがヴィスカリア兵であるとわかる。
「ステリアット様と思わしき人物を発見しました!」
「えーっ! 嘘でしょ? こんなどうでも良い町で?」
女は隊長格であるようだった。
隊長という責任ある立場であるにも関わらず、彼女の見た目はとても若い。
驚くべきことに、十代半ばを過ぎたばかりである彼女を兵士達は隊長と慕っている。
彼女が指揮する隊は最近になって組まれたもので、ヴィスカリア公国で最も緩い隊と呼ばれていた。
それ故にこの隊の所属となった兵士は、他所属の兵士から羨ましいと言われることが多い。
「石、持ってた?」
隊長格の女が、イチゴを頬張りながら問いかけた。
「未だ確認できず。 申し訳ありません」
「えっ? 首からかけてなかったの?」
「はい。 ありませんでした」
口を動かすのを止めてしまうほど、隊長格の女は動揺しているようだ。
「まずいよ……もし捨てられてたなんてことになったら……」
「団長は怒るでしょうか?」
「怒るなんてもんじゃないよ……私たちのお昼ご飯、毎日もやし炒めにされる……」
「それは困りますね」
女は頭を抱えて黙り込んだ。
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