特に何も無い町

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ステリの出身国、ヴィスカリア公国には小国なりに軍隊がある。 兵士の総数は三百人ほどだったが、内乱のおかげでその数は更に減少していて、今では八十人に満たなくなっていた。 内乱が収まり、その軍隊は新たにヴィスカリア守衛団として名前を変え、行動を起こしていた。 守衛団の総数は先の通り八十名弱。 隊は基本的にヴィスカリア城を四方から守るための構成をしていて、東西南北の名前を冠した四つの部隊に分けられている。 それぞれの隊に優劣は無いが、その隊長格には上下関係が存在した。 最も上の立場にある、ヴィスカリア守衛団長が率いる西の隊。 守衛副団長が率いている南の隊。 そして隊長格が二人、北と東の隊だった。 その隊長格の一人がこの町でケーキを食べていた女だ。 守衛団内部で槍を使わせたら右に出るものはそんなにいないとされ、伸び代だけなら誰よりも評価されている。 年齢は十七歳、若くして北の隊長となった女。 彼女は名前をシュリという。 「その子、本当にステリアットちゃんだった?」 シュリは部下に疑いの目を向けた。 見つけたのが本当にステリであるのなら、団長に報告の文を送らなければならない。 しかし送っておいて、後から間違えましたでは大変なことになる。 「もう一度調べますが、間違いないかと。 金髪の男と宿屋へ入っていくステリアット様を目撃しましたので」 「や、宿屋……えっと、どんなヤツ?」 「若い男でしたね。 遠くからしか判断できなかったので、細かくはわかりません」 頭の中で踏み込むことを想定していたシュリは焦った。 若い男と宿屋へ向かう。 この意味がわからないほど、彼女は子どもではない。 「今夜、踏み込みますか?」 部下の男はシュリに許可を得ようと問いかける。 「い、いや。 そっか、夜かぁ」 「お言葉ですが、隊長殿。 中で何が起こっていようとも、我々には関係の無いことです」 シュリは悩んだ。 赤い髪の毛を指先で器用に弄り、逆の手ではテーブルをとんとんと叩いていた。 唸り声を三回ほど上げた後、彼女は意を決したように口を開く。 「もう一度、ステリアットちゃんかどうか、確かめよう。 ついでに石を持ってるのかどうかも」 「はっ!」 結局、突入は先延ばしとなり、ここは穏やかに諜報から入る事となった。
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