《親父の背中》

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父さんは目的地の駐車場に車を停めると後部座席の荷物を担ぎ歩き出す、僕は僕のリュックだけを背負って後を追った。 電信柱に『仙石原』という住所が書かれている。過疎化、という言葉がよく似合う寂れた町だった。 しばらく歩いたところで山を登っているということに気が付いた、いつの間にか町並みは小さく見える。 「ここが金時山だ、たいした山じゃないからすぐに頂上に着く、この山はかつて金太郎が住んでいた山でな……」 父さんは金太郎の話をしてくれていたけれど、僕には話を頭に入れる余裕はなくて急斜面に食らいつくことで必死だった。父さんは大量の荷物を背負っているくせに軽々と登る。 父さんこそが金太郎じゃないかと思った。 頂上には簡単に作られた山小屋があって、おばちゃんが一人でお土産や軽食を売っていた。 僕はもうくたくたで景色を見る余裕もなく木製のベンチにへたり込む。観光客達はそんな僕を笑った。 父さんと山小屋のおばちゃんは何やら仲良さげに話をしている。 「星夜君、大きくなったねえ。そういえば九呂(クロ)さんとこの子もこないだ来たばっかりよ」 「ああ、九呂さんとこも来ましたか。桜花(オウカ)さんとこは娘さんでしたね。もうとっくに済ませたとかで」 「ええ、桜花さんとこは早かったわねえ」 「もうそんなに時が経ってしまったんですね」 「早いわねえ。黄瀬(キノセ)さんは今日のうちに済ませる予定で?」 「ええ、日が暮れる前には」 「気をつけてね」 会話を済ませた父さんからミネラルウォーターを受け取る。 「それ飲んだら行くぞ」 「えっまだ先があるの」 「こっからが本番だよ」 僕は立ち上がると父さんに付いて行く。 「えっここ道じゃないよ」 父さんが向かった先は獣すら通らないような藪だった。「大丈夫、しっかり付いて来いよ」 僕は渋々、道なき道をかきわけて進んだ。
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