《親父の背中》

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藪の先には洞窟があった。 父さんは何のためらいもなくそこに入って行く。「足元に気をつけて、滑るぞ」 父さんは荷物の中から取り出したヘッドライトを僕に手渡した。 洞窟の中は進むほどに寒く、冷たさを増していった。 ヘッドライトが父さんの背中だけを明るく照らす。相変わらずの大きな背中だった。 「着いたぞ」 狭い通路に現れた円形の広い空間。 天井に空いた隙間から太陽の光が漏れていた。 「なに、ここ」 「始まりの場所さ」 父さんはそう言うと満足気に微笑み、陽光が照らす台座のような場所を指差した。 「これがお前のクリスタルだ」 「は?」僕はわけもわからず、父さんが台座から拾い上げた琥珀色の石を受け取る。 「金太郎、またの名を坂田金時、彼は強靭な肉体と精神力を持っていた。それはこの場所によって与えられたものだと言われている」 また、父さんのよくわからない話がはじまった。 「その石の力だ」 僕は琥珀色の石を見つめた。 「その石が無かったら、金時は酒呑童子を倒すことができなかった。日本には戦隊ヒーローがあるだろう?」 僕はさっきまで聞いていた子供向けの歌を思い出す。 「その起源は頼光四天王にあるんだ。そして俺達はその子孫にあたる。平安時代より受け継がれるヒーローの血が俺達には流れている。星夜、お前がこの場所に来るのはこれが2回目だ。お前がまだ赤ん坊だった頃、この台座にお前の血を供えた。そして今その血がクリスタルとして存在する。それはお前がヒーローとして認められた事を意味している。信じ難いのは理解できる。父さんもそうだったから」 僕は呆然と立ち尽くした。これは僕の日頃の行いを改めるよう仕組まれた壮大なドッキリに違いない。そう思った。
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