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「星夜、何見てるの?」
獅子舞レッドである桜花爛(オウカラン)が肩越しに覗き込んできた。彼女は僕と同い年だが、男勝りの気の強い女だ。
「ああ、家族の写真。懐かしいと思ってさ」
「ふーん、なんか似てるね、星夜とお父さん。あっでも目はお母さんかな」
「そう?」僕は思わず恥ずかしくなってしまった。ゴワゴワの剛毛の髪の毛は親父譲り。
目は、どうだろう……。
「父さんと母さんは、いつになっても越えられない気がする」
写真を眺めながらそう言うと、「何しんみりしてんのよ」と肩を叩いてきた。
「いってえな」
目を離した隙に彼女は「もーらった」と言って写真立てを持ち去ると小走りに逃げた。
「あっ待て、返せ」
爛はオフィスを出て、奥へ奥へと通路を進む。
「こら、爛。返せよ」
「こっこまーでおーいでー」
彼女はくるくる回りながら楽しそうに食堂の扉を開けた。僕はまんまとその中に誘い込まれる。
『誕生日!おめでとー!』
そこにいたのは獅子舞ファイブのメンバー5人。テーブルにはケーキやご馳走が用意されていて食堂は手作りの装飾で鮮やかに彩られている。
「みんないつの間に。僕の誕生日知ってたの?」
「何言ってんのよ、ここに書いてあるじゃない」
爛は写真の中のバースデーケーキのチョコレートの飾りを指差した。
僕は思わず、泣く。
「出た出た、泣き虫星夜」
ーー僕の誕生日のために割く時間があるなら対アークの作戦でも考えろよーー
くだらない事を常に真剣に楽しもうとするこいつらは、僕の宝物だ。
ーー父さんと母さんのおかげでこんなにも素敵な仲間達に囲まれているーー
「はい、星夜の宝物」
爛はそう言って写真立てを手渡してきた。
「12歳の星夜は、何かクソガキって感じ。今の星夜のほうがカッコイイと思うよ」
爛の言葉に僕は顔が赤くなった。
「でも、これは僕の原点なんだ」
ーーそう、これが全てのはじまりだったーー
今まで、辛い時やくじけそうな時、何度も何度も眺めてきたはずの写真が、今日はなんだか、別物みたいに美しい。
ーーああ、あの時、父さんが言っていた言葉の意味は、こういう事だったのかなーー
と、僕は思う。
「何突っ立ってんだよ、食おうぜ!星夜!」
「おう!」
その日、僕は戦いの日々も忘れてしまうほどに楽しんだ。 父さん、母さん、ありがとう。
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