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パタパタと母さんの足音が近づいて来るのがわかった。
「うざい」その一言に尽きる、と思う。
「星夜、母さんの言うこと聞いて頂戴。母さんと一緒にご飯を食べなさい」
と、部屋のドア越しに母さんは言った。
「うーん、もう少ししたら」
僕はそう言いながらスマホ画面の中、見た事もない強そうな敵に胸を躍らせていた。
今日学校で春輝が言っていた、時間制限付きのレアな奴だ。
「星夜!はやくしなさい!」
春輝のキャラを連れていても、HPが持ちそうに無い、ライフを補充したとしても勝ち目は無さそうだが、僕はクリスタルの消費も厭わずライフを補充した。だってもう、明日になればこの敵に出会うことはできないかもしれない。
その時だ。
突然、ドアが開けられた。外側からロックが外されたのだ、全く気がつかなかった。
僕が顔を上げた瞬間にはもう、母が目の前にいて一瞬の隙にスマホを奪い取られた。
「何すんだ、返せ!」
寝っ転がっていたベッドから立ち上がり僕は声を上げた、母さんは目を見開いている。
それは本気で怒った時の顔だった。
「返さない!」
そう言って母さんは僕の前に立ちはだかった。
こうやって、向き合って立ったのはいつぶりなんだろう。母さんが頼りないほどに小さく見えた。
僕よりも頭1つと半分くらい小さいくせに、怒りによって唇をふるふると震わせている。いや、それはもしかしたら僕に対する恐怖心のせいかもしれない。
いずれにしろ、母さんが何をしようが僕は全く怖くない。力では絶対に負けない。
世の中が弱肉強食であるならば、正にこの空間の中で食われるべきものは母さんだ。僕はその優越感を感じると笑いそうになってしまう。
かといって、無理に力尽くでスマホを奪還するわけにはいかない。
父さんにチクられたら一巻の終わりだ。
「母さん、返してよ、あと30分だけやらせてよ」
「ご飯も食べなくてもいい、スマホも返さない!あんたみたいな子はもう知らない!」
気付いたら、僕は右足を突き出して母さんのお腹の辺りを蹴っていた。
母さんは驚いた顔で、後ろによろめき、尻餅をついた。
僕は思わず「大丈夫?」と、喉元まで出かけた声を引っ込めた。
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