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濡れ鼠のように、背中を丸めてうずくまる母さんを見送り、僕はリビングへと降りた。
テーブルには焼き魚と煮物、味噌汁にご飯が並べられていて、僕はそれに手をつける。
母さんの料理は味気ない。
ーー父さんが、帰ってきたら……ーー
そのことを考えると、僕の頭の中は恐怖心でいっぱいになって、余計にまずく感じた。
半分も食べない内に僕は部屋へと引き返す、母さんのスリッパの音が弱々しく近づいて来るのがわかった。
すれ違いざま、母さんは目を充血させながら「星夜……」とだけ言ったが、僕は構わず部屋に戻った。
ドアを思い切り良く締める。
2人きりの家に乾いた音が刺々しく響いた。
消防士の父さんは、24時間勤務と非番を繰り返す。
非番の日でも、父さんは僕が帰って来るのと入れ違いに、中学校に剣道を教えに行くから、顔を合わせるのは朝だけで、最近はほとんど口を聞くこともなかった。
僕は母さんに暴力を振ってしまった。
温厚な父だが、その外見は筋肉隆々の肉体派で、いつもシャツの胸ボタンを3つぐらい外している。父さんは熱いからだと言うが、人混みを歩けばモーゼの海割りのごとく皆が父さんを怖がって避け、道ができる。
さすがに今日の事を聞いたら父さんも顔を真っ赤にして怒り出すのではないか、僕は その事を考えると身体が震える思いで、何時間も布団の中で眠ることができなかった。
スマホも返してもらえない、せっかく良い所だったのに。 最悪な気分だ。
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