《12歳の誕生日》

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翌朝は寝不足で、全身が怠かった。 リビングには既に父さんと母さんがいた。 「おはよう」 重く厚みのある声で父さんが言う、夜勤明けだというのに、疲れの色を微塵も感じさせない爽やかな笑顔だ。 「あ、お、おはよ」 そう返すと、父さんは澄んだ瞳で僕を見つめた。その目は心の内を透かすように真っ直ぐに僕を向いていた。 僕は父さんに手をあげられた事は1度も無い。 何かいけない事をした時には、いつもその澄んだ瞳に敗北してきたんだ。 父さんの周辺にはオーラとでも言うべきか、ピリッとした空気が満ちている、そんなものあるわけはないのに。良い事をした時にはその空気は優しく僕を包み込んでくれるが、悪い事をした時や後ろめたい事を隠している時には、その空気が僕を責め立てるようにピリピリとしていても立ってもいられない心細い気持ちになる。 「か、母さん。昨日は……ごめんなさい」 そう言わずにはいられなかった。 僕がランドセルに教科書を詰めていると父さんが側に寄ってきた。無意識に身体が強張る。 「星夜、来週の誕生日、学校休め。もう学校に連絡はしてあるんだ」 「えっ」 突然何を言い出すのか、拍子抜けだった。 「どっか行くの?」 「ああ、父さんとドライブだ。11月の6日は丁度金曜日だったから3連休になるぞ、よかったな」 「2人きりで、ドライブ?」 「嫌か」「別に」 嫌な予感しかしなかった、12歳の誕生日は最悪な日になりそう。 今朝は、昨日の事を何も咎められなかったが、もしかすると誕生日に何かお仕置き的な事を企んでいるんじゃないだろうか。 集団登校の中、僕は気が気ではなかった。 学校の休み時間には、ここぞとばかりに親の愚痴を友達にぶつけたが、結局みんなゲームの話で盛り上がり、僕はなんだか置いてけぼりをくった。 スマホの無い空虚な日常も、例に習って淡々と過ぎて行く。 11月6日金曜日、その日は普通にやってくる。 「明日は朝早いって、父さんが言ってたから早く寝なさいよ」 前日の夜、母さんはドア越しにそう言った。 僕はスマホを返してくれない母さんへの苛立ちから、口調を荒げて「うるせえ」と返した。 スリッパの音は弱々しくリビングに消える。僕は布団に包まって、12歳になる時を迎えた。 朝が怖くて心臓がドキドキと鳴っていた。
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