《親父の背中》

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目を開けると、車は見知らぬ山の中を走っていた。 「やっと起きたな、腹減ってないか」 僕はうんとだけ返す。 2人きりの気まずさに耐え兼ねて、目を閉じている内に本当に眠ってしまったらしい。 そして夢を見ていた、まだ僕が小学校低学年頃の記憶が現れ出たような夢だった。 父さんの運転席には、昔の人が考えたタイムマシンみたいに、赤や黄色や青色をしたボタンがたくさんあって、訳のわからないメーターが色々と付いている。 あの頃の僕と言えば、それが気になってしょうがなくて、無茶苦茶に操作したがった。 そしたら父さんが、「母さん、星夜が大変だから後ろで見ててくれないか?」って母さんに言って、僕は小学校5年生になるまでずっと。後部座席に座らされた。 でも、夢の中で僕は、そのボタンやら何やらを自由に操作していた。それはまるで、バットモービルやデロリアンを乗りこなすような、そんな爽快な夢だった。 「あと30分くらいだ」 父さんは言った。僕はまた、うんとだけ返した。 車は峠のような山道をひた走る。ずっと同じ景色が続くようで退屈だ。 そして車内のBGMも。 「ジャズは飽きたか?」 父さんは僕の心を見透かしたかのようなタイミングで言ったから僕ははっとした。 うん、と正直に答えてみる。 「飽きるって事はな、すごく良い事なんだぞ。物事の本質は飽きてから見えて来るんだ。だから、飽きてもやり続けろ」 意味をよく理解できないまま、うんと言うと父さんは笑いながらカーステレオの操作を始めた。 やけにテンションの高い歌声に車内の空気が一掃された。 「なんだよ、この曲」 「いいだろ、テンション上がるだろ」 「別に、ガキじゃあるまいし。てゆうか、父さんこんなCD持ってたの?」 流れているのは戦隊物のヒーロー番組の曲だった。昔は本当に好きだった気がする、父さんが「悪い奴が出てきたら、俺も変身して助けてやるからな」って冗談で言っていて、それを本気で信じていた。 「ゲオで借りたんだ。新しいのがコロコロ出るからな、買ってたらきりがないんだよ」 気づいたら僕は笑いながら父さんと会話していた。中学に行ってもバスケは続けるのか、とか、好きな子はいるのか、とか聞かれても素直に答えている僕がいた。 何故だろう、僕の中にあった張り詰めた緊張感は太陽に解かれる雲のように散り散りに溶かされている。
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