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「……ごめんなさい。私はやはりあなたとは結婚できません」
アイリーンは、静かに、そして力強く口にした。瞬く間に王の間は騒めき立つが、それでもアイリーンは微動だにせず、婚約者であるジェイス王子から視線を移すことはない。その姿は、これが私の意思なの、と強く訴える以外何物でもなかった。
「何を馬鹿な事を言っているのだ!」
アイリーンの父であり、このウイズダル王国の王であるサライは心底焦って怒鳴った。隣国であるリーガン王国との戦争だけは避けなければいけない。
「バカなことなのかもしれない……でも私の人生なの」
父、サライの怒鳴り声にもアイリーンは揺るがない。そんな彼女を見てサライは自分の娘の髪は短くなっていることに初めて気付いた。母親と同じように美しい金髪は変わらないが、母親のように長くはない。
「人生だと?お前は王女だ!国こそがお前の人生だ!」
「違うわ!私は私!」
これまでの冒険は彼女を強くしていた。あの頃の、何でも言うことを聞いていたアイリーンはもういない。
「もう十分勝手なことをしてきたじゃないか!」
「もう決めたの!」
城に戻ってから一週間、アイリーンは悩みに悩んだ。しかし結局はいつも一つの答えにたどり着く。選ぶのはジョニーだ。
それは一年前から決まっていたのかもしれない。あの日、王の命令でドラゴン討伐に出かけたジョニーを追いかけた時からだ。あの時はただの好奇心からだったが、もしかしたら自分の知らない奥底で、ジョニーを想い慕っていたのかもしれない。
「……ジョニーか?」
「ええ」
「くっ、ジョニーをここへ連れてこい!!!」
サライ王が叫び、兵士たちは地下牢へ急ぐ。
ジェイス王子は、ただ黙って成り行きを眺めることしかできなかった。
「ジョニー!!!」
連れてこられたジョニーにアイリーンは駆け寄り、抱きついた。
「大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよ。心配かけて済まない」
ボロ布を身に纏い、黒ずんでいる顔は、決して大丈夫そうには見えなかったが、覗き込んだ際に見えたその瞳は、まさしくジョニーそのものだった。あのときから一点も変わりなく輝くその瞳は今もアイリーンの心を強く引き付ける。
「ジョニー。私、あなたと一緒に生きていくわ」
やっとだ。ずっと隠していたこの気持ち、やっと伝えられた。
アイリーンの頬に一筋の涙が流れる。
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