剣道

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 嘘には見えない優しい笑顔で有紗は言った。 「でも、これでわたしはいよいよ、スポーツをする機会は無くなっちゃったんだ」  優しい笑顔はその言葉と共に、少しずつ寂しくなっていく。  しかし、何かの準備だろうか、曇り始めた有紗の表情を相殺するように、その両目は輝き始めた。 「ねえ。らすとは、十年前に戻りたいなんて思ったことない!?」 「……戻りたいのか?」 「……うん、戻りたい。何も知らないあの時代に。したいことしかしない、あの時期に」  やっぱり、俺と有紗の価値観は近い。  世間を知れば知るほど、自分の存在意義を見失っていく。  きっとみんなそうなんだ。  口にしないだけで。  有紗の方を見ると、凄く眠たそうに頭が船を漕いでいる。  疲れたんだろうな、慣れないことして。  でも楽しかったんだろうな。  有紗から目を離すと、俺の肩に有紗の頭が倒れてきた。
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