1人が本棚に入れています
本棚に追加
嘘には見えない優しい笑顔で有紗は言った。
「でも、これでわたしはいよいよ、スポーツをする機会は無くなっちゃったんだ」
優しい笑顔はその言葉と共に、少しずつ寂しくなっていく。
しかし、何かの準備だろうか、曇り始めた有紗の表情を相殺するように、その両目は輝き始めた。
「ねえ。らすとは、十年前に戻りたいなんて思ったことない!?」
「……戻りたいのか?」
「……うん、戻りたい。何も知らないあの時代に。したいことしかしない、あの時期に」
やっぱり、俺と有紗の価値観は近い。
世間を知れば知るほど、自分の存在意義を見失っていく。
きっとみんなそうなんだ。
口にしないだけで。
有紗の方を見ると、凄く眠たそうに頭が船を漕いでいる。
疲れたんだろうな、慣れないことして。
でも楽しかったんだろうな。
有紗から目を離すと、俺の肩に有紗の頭が倒れてきた。
最初のコメントを投稿しよう!