第1章

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「次の標的は、彼女だ」 眩しいほど照明に囲まれた部屋で、短く命じた男の言葉が、青年の心を支配する。 眼に焼き付けた、少女の顔。 彼女の経歴、現在における環境、性格、趣味、食べ物の好みにいたるまで、およそ仕事には必要ないと思われるような資料でさえ、彼は少女に関する情報という理由から、それらすべてに目を通し、頭にインプットした。 中国、人民政府が誇る国立研究所の構造、警備隊形、警報装置の位置、及びそれらを統括制御(コントロール)している機械系統(システム)とともに。 「期日は、十日」 軽く顎をひき、彼は願った。 絶えることなく叫び続ける心の悲鳴は、いつ止むのだろう。拭いきれないほど血に染まった両手は、けして白くなりはしない。 ならばいっそのこと、果てもなく苛む戒めから逃がれるために、この偽りの魂を停止(と)めるために、誰でもいいから、 自分を殺してくれ、と……。
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