第1章

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爽やかな風が流れている。水をたたえた大地は静かに潤い、そして新たな生命を育む。 天に聳えるようにのびた、菩提樹の森。 美しいガラスに包まれた偽りの楽園。 そこには、緑が溢れていた。 国立研究所。 中国、人民政府が十年の歳月と、多額の費用を費やして建造した、緑化政策の源である。 国立研究所ー別名『翡翠の宮殿』は、地上ニ十階、地下七階からなる本棟を中心に、異なる環境に設定された三つの巨大な温室と、科学者や技術者たちが生活する居住空間棟の五棟からなりたっている。 現在、人民政府が各国から招いた優秀な博士と技術者のもと、ユーラシア大陸におけるゴビ砂漠および黄土高原のひとつ『アフターE』計画を遂行していた。 広大な荒れ地を緑にする。 それが時間的に余裕がなく、金銭的に無理ならば、砂漠に育つ植物を作り出せばよい。 地球規模で砂漠化が加速度的に進む、現在。 食料の大量生産は、国の命運をも左右する重大な事業のひとつだった。 緑化政策『アフターE』その成果の一端が目の前に広がっている。 鮮やかな緑の森が存在している。小さな白い花を咲かせて。 「いらっしゃるかどうか」 軽い吐息をついて、彼は顔をあげた。 ふと目の端にとらえた白い燐光に足を止める。 温室の中央、ひと際大きな菩提樹の根元に、行儀よく座り込んでいる少女を見つけ、青年ーカインはゆっくりと体を向けた。
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