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「くそ、どこ行きやがった!」
「どうせ近くに潜んでる!探せ!」
落ちてきた辺りから、自分を探す荒々しい声が聞こえる。どうやら、落ちたことには気がついてないようだ。そのまま、声はだんだん遠ざかっていくのをしっかり聞き届ける。
「行っ……たかしら……」
声が聞こえなくなり、負傷した体を奮い立たせる。このまま見失ってくれればいいが、そんな甘い考えは期待できない。今のうちに、少しでも遠くへと逃げる必要がある。
……雲が流れ、月が姿を現す。肩からは銃弾に貫かれ、暗い森の中を走り回ったり崖を転げ落ちたことにより少女の体はボロボロだ。しかしそれでもなお、少女は諦めることはなく、気高く立っている。月光に照らされる銀髪は、ホタルの光が比にならないほどに美しかった。
「……あ……これ、ヤバいか……も……」
歩き出そうとしたとこで……何かに躓いたのか、足がもつれて……体が横に倒れていく。……何かに躓いたわけでは、ない。もうどれほどか走り回っていた少女の体はすでに限界を迎えていたのだ。決意とは別の所で、体がついてこない。
ここで倒れてしまえば、意識を手放してしまうだろう。そうなれば、見つかるのも時間の問題だ。そうなれば、殺されるだろう。……そんなわけには、いかない。ここで死んでやるわけには、いかない。こんなところで、終われない。
しかし……倒れる体を踏みとどまらせる力は、もうない。決意虚しく倒れ、保っていた糸が切れてしまったかのように意識が遠のいていく。ダメだ、このまま眠っては。ここで死んだら、私は何のために……
「ふぁ、る…………ぜ……」
縋るように、絞り出されるように口から出た、その名を、彼女を想いながら……銀髪の少女の意識は、暗闇の中へと吸い込まれていった。
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