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胸を押さえ、思わず膝をつく。それはつまり、敵を前に無防備を晒すことだ。それも、油断の隙もあってはならない相手の前で。その上、時間もないのに……この胸を、苦しみが、痛みが、支配していく。この数秒さえも、隙を与えてはいけないのに……
「……あ?」
……全身を震えが走る。レイの力を借りて放った渾身の一撃。それが……彼女を戦闘不能どころか全く怯ませていない事実に、私は驚愕と恐れを痛く。痛みに顔を歪め、それでも顔を上げると……そこには、血で口元を染めながらも不敵に笑う悪魔がいた。
「っ、がっ……!」
『発作』を抑えるために、レイが回復に力を分けてくれる。数秒後にはいつものように治まるはずだ。でもその数秒は、この場においては致命的な隙にしかならない。唖然とする私は、突然の衝撃に脳が揺れた。
顎が、蹴り上げられたのだ。突然の衝撃に備えのなかった私は、強制的に仰向けに倒れさせられる。すぐに起き上がろうとするが、私の腹を彼女は踏み付ける。
「かはっ……!」
「何か知らねえが……辛そうだな。えぇ?」
踏みつけられる力は凄まじく、足を退けようと両手で掴んでもビクともしない。少しでも力を入れれば、内臓から破裂させられてしまうんじゃないか……そんな不安が、頭をかすめる。ただでさえ、『発作』治まらないのに……おさ、まらない?
いつもなら、レイの力で数秒後には治まるはずの『発作』が……治まらない。腹を踏み付けられているから……というわけではない。痛みが引かないのだ。いつもなら……いつもと違うことがあるとしたら?いつもと違うのは、レイの力を借りている最中に『発作』が起こったくらい……まさか、それがげんい……
「……!?がぁあああ!?」
「おいおい、こんな状況で考え事か?ずいぶん余裕じゃねえか」
踏み付けられる足に力が入れられ、思考が中断される。これ、やばい……何とか反撃を……
「悪いな。抵抗はさせねー」
「っ!?ぁ、がっ……ぁああぁあ!?」
動けないまでもせめて力をぶつけるくらいなら。そう思って天力を集中させていた手に、何かの衝撃。瞬間、痛みが頭を支配する。恐る恐る確認すると……私の手に、突き刺さっていたのだ。それは、その辺に転がっていたただの小枝。それは先端が、まるで槍のように尖っていた。
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