268人が本棚に入れています
本棚に追加
悪魔である父と、人間である母。その間に生まれた少女バランダは、半分は悪魔、半分は人間の血を受け継いでいる。とはいえ、子供の彼女にはそんな難しいことはわからず、体が頑丈なのかあまり怪我をしない、怪我をしても治りが早い、くらいにしか感じていなかった。黒い羽も、父とお揃いだとくらいにしか感じていなかった。
悪魔と人間の子供であること……それが、バランダが外出を禁止された理由だ。実際に彼女がそれを理解したのはずっと後のことだったけれど。
あまり家にいない父と会えるのは、初めは一週間に数回。それが徐々に頻度が減っていき、次第に一週間に一回、月に数回、月に一、二回程度に。これも後でわかったことだが、悪魔が人間界に行っているという事実をばれないように、父はあまり帰ってこれなかったらしい。だからか、たまに会える父は娘に甘かった。
父がいないため母は一人、生活のために昼夜問わず働いていた。なので物心つき、一人である程度のことが出来るようになった頃には、家には基本バランダ一人の日々が続いた。外出も許されないため友達も出来ず、彼女はずっと家の中で過ごすしかなかった。その時何を思って過ごしていたのか、何をして過ごしていたのかは、今はもう思い出せないけれど。
それでも不満を持たなかったのは、忙しいにも関わらずいつも娘に優しい、母の姿があったからだ。一人にしてごめんね、でも偉いね、と、バランダに微笑みかけた。自分を養うために頑張ってくれている母に、不満をぶつけられるはずもない。
寂しくないと言えば嘘になる。だがそれ以上に、少女は母が好きだから。無垢な少女は、母が、父が、大好きなのだ。だから、何も寂しくない。寂しいけど、寂しくない。
頑張り屋で優しい母。少女にとって、大好きで、憧れで、とっても優しい女性。こんな大人になりたいと、幼心ながら思っていた。
……少なくとも、あの時までは。
最初のコメントを投稿しよう!