外れた鎖

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たまに帰ってくる父が、母の目を盗んで外へと連れ出してくれたことがある。その日母はどうしても外せない用があり、家にはバランダと父の二人だけだった。バランダがいつも家に一人、外出を禁止していることを父に知らせていない手前母は深いことは言えなかったが、外には出ないよう釘を刺して出ていった。 「バランダ、外に行くか?」 だが父は、バランダにそう告げた。バランダは母との約束を破るような気がして渋った。だが父がいる、一人じゃないし大丈夫だと、父の手を取った。 父と二人きりの外は、何だか不思議な気がした。 「バランダ、何かあったんじゃないのか?」 外で、父はバランダに聞いた。父は、家を出れないバランダの事情を知らない。だが、どうやら父は、そんな娘の些細な変化に気付いていたらしい。外に出れず、しかしその不満を表に出さないようにしていたのにだ。もしかしたら外に出たのも、娘に気分転換をさせてやろうと思ったからかもしれない。 「……何でも、ないよ」 そんな父の問いかけに、バランダは何でもないと答えた。お父さんに内緒……父の心配より、母との『約束』を取った。幸いにも、父が深く追及してくることはなかった。 そして、母が戻る前に、家に戻った。外に出たという証拠はどこにもない。母にはバレないはずだ。 「……あなた、今日あの子を連れ出したでしょ」 だがバランダは、聞いてしまった。夜、トイレに行くために起きた時だった。バランダが寝静まるのを見計らっていたのか……寝る部屋ではなく、いつも食事をする場所で。扉を閉め、極力声を抑えていたのは娘を起こさない配慮だろうか。 そんな配慮も、起きてしまったバランダには意味がない。おまけにこの頃の彼女は知るよしもないが、その 生まれの影響か人間よりも聴力が発達していたのだ。
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