外れた鎖

5/31
前へ
/1165ページ
次へ
「それは……」 「勝手なことしないで!どうするの、あの子が悪魔の子供だってバレたら!」 廊下に漏れる光。少しだけ扉を開いて、話し合い……というより、言葉に詰まる父に詰め寄る母の姿を見つめていた。その姿は、なぜか今でも鮮明に覚えている。 「……なぁ。あの子……バランダ、まさかオレがいない間ずっと家の中で一人なんじゃないか?」 「……あの子、喋ったの?」 「そう言うってことは、本当なんだね。バランダは何も話さなかったよ。けど、わかるさ……親だからね」 墓穴を掘ってしまった事実に、母が舌打ちする。その姿は、バランダの中にある優しい母親像とは到底掛け離れたものであった。今まで内緒にしていたことがバレ、母はバツの悪い表情を浮かべる……かと思いきや、次の瞬間には父を睨みつけていた。 「そうよ!それの何が悪いの!?私は、あの子のために昼も夜も働いてるの!その間もし、目の届かない所であの子の正体がバレたらどうなると思う?そんなに言うならロム、あなたがあの子の側にいなさいよ!」 「それは……そうしたいのは、山々なんだが……」 優しかった母が温厚な父に向ける表情を、感情を、初めて見た。その意味するものを、言葉以上に本能で感じ取っていた。娘を外出させず家に閉じ込めていたこと、それが本人の口から語られるが、続く言葉に反論する言葉を父ロムは持っていない。 監禁にも近い行為を決して許すわけにはいかない。だがその行為を生み出しているのは、回り回れば自分が原因なのだから。その事実に気づいているからこそ、ロムは言葉を返すことが出来ない。 「出来ないなら、口出ししないで。それとも……そうね、銀行でも襲ってたんまりお金が入れば、生活に余裕ができてあの子の側にいられるわ。そうすれば外にだって、好きなだけ連れてってあげるわよ」 「お前……」 「何よ、まさかそんな非人道的なことはできませんって人間らしいことでも言うつもり?……悪魔のくせに」 吐き捨てるように告げる母は「何も出来ないなら口出ししないで」と話を中断する。部屋を去る母を止める術はロムにはない。バランダは急いで部屋に戻った。そして、どっちが正しいとかどっちが間違ってるとか、そんな話ではないと思った。 間違ってるのは…… ……母が壊れてきたのは、その頃からだった。暴力を、振るうようになった。
/1165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

268人が本棚に入れています
本棚に追加