外れた鎖

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それを聞いた瞬間、何を言われたのか理解出来なかった。母の口から語られたのは、父の死……少女にとって、信じられないものだった。 「うそ……だよね……?」 しかし、縋り付くような言葉は即座に否定される。そう言って差し出されたのは、黒い羽。一瞬何かと思うが、即座に気付く。父の背中に生えていた、悪魔の翼の一羽だと。黒いそれは、さらに赤黒い何かで汚れている。 「殺されたのよ、天使に」 「てん……し?」 母の話はこうだ。最近、人間界に魔物や魔獣が出没するようになり、それを駆除するために人知れず天使が天界から人間界に降りてきているのだ。そのために父は以前のような頻度で人間界に来られなくなっていた。 それが何とか、今回天使の目をかい潜って来ることが出来た。だが慎重に行動を成すため、母と父は合流して帰宅することに。悲劇が起こったのは、その時だ。 二人で身をひそめて帰宅していたところに、魔物が現れたのだ。ここにいては危険だからと、父は母を逃がした。だが、母はこっそり物陰から見ていた。知性のない獣は悪魔相手でも牙を剥き、一触即発の状態。だがそこへ現れたのが、天使だ。 天敵の出現に魔物は即座に襲い掛かるが、知性のない獣では相手にならない。天の輝きに包まれた獣は一瞬のうちに、その存在を消失した。そしてその次の標的は、当然目の前にいる父だ。 天使を前にしたロムは、自身の素性を知られるわけにはいかない。なぜここにいるかを知られるわけにはいかない。……だが目の前の天使は、悪魔の素性にもここにいる理由にも興味はないと言わんばかりに、冷たい視線を向ける。その瞳は、悪魔であるロムも思わず身震いしてしまうほど。 「……え……」 ……そして気付いた時には、腹に穴が空いていた。 「な……がっ……」 「何が起きたかわからないって顔だな。端的に教えてやる。『悪魔だから殺した』、それだけだ」 男の声は、ただ無機質にロムの耳を震わせる。抵抗も逃走も、考えうる可能性を実施するその前に潰されて……ロムは、膝をつく。目の前に、光に輝く天使の姿があって…… 「カリー……バランダ……」 愛する妻と娘の名前を呟いたロムは……光の中に消え、鮮血を撒き散らして消滅していった。
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