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相談室を後にして、すぐに家に帰る。家には当然誰もいない。父と母は三年前に仕事に行ったきり帰ってこない。帰ってくるめどどころか連絡すら来ない。何の仕事しているかすら知らない。どこで働いているかも言っていない。携帯に電話してもつながらない。
そして自分は記憶を失っている。それは中学二年の時から中学校を卒業して高校一年の十月二十六日までの間。特に自分と付き合っていた雄一との記憶。それが何一つ思いだせない。こういうことがあったという一部の記録は残っているものの、具体的なことをまるで思い出すことができない。彼に告白してそれからのこと。そして二年前の高校一年の十月二十六日の時に病院のベッドで寝ていたところまで思い出せない。その時なぜ病院にいるのかは知らなかった。その時自分を保護した人に聞いてみれば川岸でボロボロになりながら倒れていたそうだ。憶測では川に落ち、川岸に着くまで石や岩で体を傷つけたということになっている。自分は本当にそうだとは思っていない。
「……思い出せない」
どんなに思い出そうとしても思い出せない。ただ思い出せる手段が一つだけあるのじゃないかと思った。追憶世界。そこにいけば自分の記憶を思い出せるのではないだろうか。ならばどう行くのか?前に行ったときはただ寝ただけだった。
「……早く寝よう」
いつも通りご飯を食べ、シャワーを浴び、髪を乾かしすぐに布団にもぐった。睡魔は簡単に訪れた。何も考えず目をつぶり、意識を睡魔に任せた。
「今日は早いね。そんなに記憶が知りたかったの?」
男性にしては少し高めの声。ゆっくりと目を開けてみればあの真っ暗な世界に真っ白な人。どうやら来れたようだ。追憶世界に。
「…そう。知りたいだけ」
「なら行こうか。さて、君の記憶は雄一と付き合ってその後から記憶がなくなっている。ではまず雄一とどんなことをしていたか思い出そうか。後ろを見てごらん」
エテルに言われたとおり振り向いてみればいつの間にか赤色の扉があった。
「これから君の記憶を取り戻す旅が始まる。でも取り戻すまで旅が続くわけじゃない。君のからだが目を覚ますまでだ」
「それって私の体は休んでるの?」
「もちろん。君の意識が旅をしているようなもんだからね。ここで話しても解決しないよ?」
「わかってる」
そう一言いい、赤色の扉を開けた。
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