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「えー、突然ですけど、今日は転校生が来ます!」
ホームルームを始めるや否や、先生はそう言った。
そして、教室の隅で歓喜に震える人がいた。誰であろう、俺である。
なぜなら、転校生とはラノベのプロローグと決まっているからだ。
美少女な転校生がやってきて、俺は選ばれる。そして、数々の異形と戦ううちに芽生える恋。二人は……
なんて妄想を頭の中で繰り広げ、顔の綻びは加速する。
俗に言う、俺はオタクと中二病が組み合わさった形で、そういった展開に強い憧れを抱いていた。
「はい、入ってきてー」
先生が合図すると、その扉がゆっくりと開かれた。
……正直言って、想像以上だった。
人間離れした白い肌。
髪のツヤはそこらへんの女子とは比べものにならない。
まさに理想のヒロインだった。
彼女は、手短に挨拶を済ますと、俺とは対極側の窓側の席へ座る。
これでは、全く接点がないではないか。
そう思い、項垂れながら一日の授業は終わった。
「……絶対に何かある」
日は暮れ、暮色蒼然となる廊下の上に俺は位置した。
放課後、それはそれぞれが自由な行動をとる時間。
そして、俺が在籍する教室の中には例の転校生と、その隣に座る男の二人っきりだった。
俺は虎視眈々と教室内部を睨めつける。
「……私、実は……」
「うん……」
この流れからして、普通は告白と考える奴らが大半だろうが、俺は違う。
「『異世界から来たの』」
俺の脳内と、彼女のセリフがハモる。
実際にハモったわけではないが、本当にその展開になり、驚愕は隠せない。
「貴方に、私たちの世界を救ってほしい。一緒に来てくれる?」
「……もちろん」
もちろんじゃねぇぇぇ!
お前じゃねぇよ!選ばれるのはこの俺だよ!
怒りと悔しさで長く伸びた爪が手に食い込む。
ギリギリと鳴る歯を隠すのが精一杯だった。
「うん……そう言ってくれると信じてた。じゃあ……いこ?」
そう言うと、彼女の周りに光の渦が出来上がる。
え、嘘!置いてかれる!
俺はリノリウムの地を蹴り、人生で一番速くダッシュした。
そして、二人の姿が消える刹那、光の渦に飛び込んだ。
これが全てのはじまりだった。
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