忠告 type『D』

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俺の意識は遠のいた。 * * *  翌朝、俺は看護士の悲鳴で目を覚ました。  朝の検診来た看護士が、ベッド下で傷だらけになっている俺を見つけたのだ。  すぐに病室から運び出され、怪我の治療が為される。  その際に、居合わせた医者も看護士達も全員が絶句した。  俺の体についた、大小無数の拳状の痣。その、大勢から寄ってたかって暴力を受けたような痕跡に、誰もが目を剥いて沈黙したのだ。  院長までがやって来て、昨夜のことをあれこれ聞かれる。それに俺は、隣人の男の話も含めて総てを話した。その内容に、一同はさらに言葉をなくした。 何故ならば、俺が出会った筈の男は存在しておらず、場所移動の指示も為されてはいなかったからだ。  病院側の説明によれば、俺の隣のベッドはずっと空きだったし、昨日退院した患者もいないとのことだった。ただ、古くから務めている看護士の一人が、 俺が語った男の風体から、その人は、数年前入院していた患者さんなのではということを口にした。  受け持ちではなかったので記憶は朧だが、退院間近だったのに容体が急変し、そのまま亡くなってしまったらしい。  その後も暫くあれこれと話をしたが、男が何者であるのかも昨夜の怪奇現象のことも、何一つきちんと判明することはなかった。ただ一つこの話し合いで判ったのは、 俺にベッドの移動を告げてきた看護士が、この病院にはいない人間だったということだけだ。  この後、違う病室に移された俺は、怪現象を他言無用にする代わりに治療費を大幅に割り引いてもらい、当初予定より半月近く遅れて退院することになった。  もう、ほとんどの傷は癒え、痛むこともなくなった。それでも、まだうっすらと残る痣を見るたびに、俺はあの男のことを思い出すのだ。  見ず知らずの、もしかしたらもうこの世の者ではないかもしれない人が、わざわざ伝えてくれた忠告。それに従っていれば、俺は痛い思いも怖い思いもせずにすんただろう。  それ自体は自業自得だから仕方がないが、あの人に対しては、信じなくてすみませんでしたという気持ちが消えない。  本当に、ごめんなさい。せっかくの忠告を胡散臭がってすみませんでした。  恩人の顔を思い出すたび、俺は心の中で詫びを告げ、面影に頭を下げている。 忠告 type『D』…完
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