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「んっ? どうした?」
「はっ、速いです。ちょっと逃げないんで、離して下さい」
私の訴えに、國枝先輩は手を離して足を止める。
俯き、乱れた呼吸を整えていると、彼は心配そうに顔を覗き込んできた。
長い前髪が、サラリと私の前髪にぶつかる。
「大丈夫? ごめん。テンション上がってつい」
「だ、大丈夫ですッ!」
その近さに驚き、思わず後ろに跳ねのけた。
「靴、履き替えたらそのまま待ってて。俺もすぐ履き替えてくるから」
そう言った國枝先輩は、少し離れた所にあるらしい三年の下駄箱に向かった。
シンとした静寂に、段々と冷静になってくる。
このまま帰ってしまえないだろうか。ローファーを持った手が力なく落ちる。
――ダメだ。ここで黙って帰っても、明日追い回されるだけに決まっている。
入学早々、こんな変な人に目を付けられるだなんて、思ってもいなかった。
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