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咲本 友奈(サキモト トモナ)は、目の前の男を呆然と見つめた。にこにこと楽しそうに笑いながら、椅子に腰掛けている男は、荒城 学(アラキ マナブ)。友奈が所属する芸能事務所の社長だ。軽くパーマがかった黒髪をした中年の自称イケメン。
「えっと、もう1度」
「せやから、アイドルグループでも作ろーかなって」
「はい」
「友奈ちゃんリーダーな」
やはり、何度聞こうと全くもって理解が出来なかった。友奈は所謂タレント。可愛い顔立ちに、さらさらな黒髪。しかし、アイドルをやれるほど、可愛いかと言われると微妙な所だ。
それに、いつも出ているのはバラエティー番組ばかりで、どちらかというとアイドルとは、かけ離れた扱いばかりを受けてきた。それなのに、だ。息なりアイドルになれとは、どういうことなのか。
年齢も今年で24歳。ギリギリすぎないだろうか。歌も苦手で上手いわけでもない。ダンス経験だってないのだ。どう考えても、無理難題が過ぎると友奈は思った。
「無理です」
「行ける行ける」
「何処にですか」
「テッペン」
「嘗めてんですか」
友奈の言葉に、荒城は急に真剣な顔をする。それに友奈は、少したじろいだ。
「あんな? 真剣に聞いてくれ」
「な、何でしょう」
「このままやと、うちの事務所潰れるかもしれんねん」
「はぁ!?」
何を隠そうこの事務所は弱小も弱小。芸能界での力は、ほぼほぼ0だった。
友奈もちょくちょくとバラエティー番組に呼ばれるくらいで、スケジュール帳は白い部分の方が多い。そんな友奈でさえ、この事務所ではなかなかに稼いでいる部類という状況だった。
「ついに、潰れるんですか」
「ついにとか言わんとってくれる? これでも俺、めっちゃ頑張ってるからな?」
「なるほど? それで、急にアイドルグループですか」
「うん。駄目?」
「せめて、歌手とかにしませんか」
「まぁ、別に俺は稼いでくれたら何でもええねんけど」
「ド直球ですね」
友奈は溜息を1つ。痛くなる頭を押さえた。
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