はじまりはじまり

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 この秋桜(アキザクラ)事務所は、関西で活動していたのだが、東京に進出。しかし、結果は今の有り様だ。友奈は、関西の頃から世話になっているため、この話を断るわけにはいかなかった。 「それで? グループってことは、他にもメンバーがいるんですよね?」 「勿論や。こいつらが他のメンバーな。グループ名とかは、好きに付けたらええから」  机に並べられた三枚の書類。友奈は、机に近づき、書類に書かれた名前と写真を見ていく。しかし、知っている人物は1人しかいなかった。それも勿論大問題だが、それ以上の問題点が1つ。 「あの、全員男なんですけど」 「そやで?」 「何でですか」 「実は、そいつら落ちこぼれも落ちこぼれでなぁ」 「はい?」 「全員、顔は悪ないねんけど、コミュニケーション能力がやな。問題だらけでなぁ。ほぼほぼ引きこもりやねん」 「駄目じゃないですか」 「本間になぁ」  これは、不味いと思った。そんな問題児達を押し付ける気かと、友奈は書類に視線をやる。  2人は東京出身で、顔を合わせたこともテレビで見た記憶もない。しかし、1人だけはよく知った人物の名前だった。  穂村 剛(ホムラ ツヨシ)。彼は関西からの仲間なうえに、今でもよく飲みにいく友達だった。それに、彼はちょい役ではあるが、ドラマや映画でも偶に見る。いや、見ていた。 「穂村くん」 「仲ええやろ?」 「そう、ですね」 「もう1回、表舞台に引きずり出したってぇな」  にっかり、笑った荒城に、友奈は力強く頷く。  とある事件以来、オファーを全く受けなくなった穂村に、友奈は何も言わなかった。いや、言えなかった。  穂村くんを頷かせるのは、骨が折れそうだと友奈は溜息を1つ。そして、この知らない2人。 「この2人は?」 「一応、穂村と同じ俳優と友奈ちゃんと同じタレント」 「なるほど?」 「一時、テレビにも出とったんやけどなぁ」  言われてみれば、見たことがあるような。やはり、無いような。友奈は眉根を寄せて、2人の写真を見つめる。  確かに、顔は悪くない。しかし、全員30オーバー。まぁ、今時のアイドルなら普通か。許容範囲だろう。そこまで考えて、友奈は首を横に振った。違う。私達が目指すのはアイドルではなく、普通の歌手だ。
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