はじまりはじまり

5/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「と言うか、車がないと困る!」 「あ、あぁ、うん。友奈ちゃん免許持ってないもんね」 「うん、運転よろしく」 「足が欲しがっただけ?」 「うん!」 「素直」  穂村は、がっくりと肩を落とした。それに、友奈は不思議そうに首を傾げる。 「そんなに嫌なら電車で行くけど」 「いや、行く!」 「そう?」 「うん。だって、男の家に行くんでしょ」 「言い方。別に変な事なんて起こんないよ」 「分からないでしょ!」  友奈は何処か呆れたように、溜息を吐き出す。そして、諦めたように笑った。 「穂村くんは、過保護なんだよ」 「友奈ちゃんが、無防備過ぎるの」 「そうかな?」 「そうだよ」  なんて、会話をしながら2人は穂村の家を出て、車に乗り込む。車のエンジンをかけた穂村は、友奈に視線をやった。 「どっちから行くの?」 「遠い方から行こっか。タレントの飯田 明希(イイダ メイキ)」 「ん、分かった」  穂村は、書類に書かれている飯田 明希のマンションへ向かって、車を走らせた。 ******  咲本 友奈は、恐る恐ると目の前のボタンを押した。ピンポーンと鳴ったマンションインターホンの音に、落ち着きなく前髪を触る。閉ざされた硝子の扉は、中から開けてもらわなければならず、このままでは部屋の前にさえ行けない。 「出ない……」 「そうだね」  しかし、いくら待っても返事は返ってこない。友奈は、もう1度インターホンを鳴らした。 「…………は、い」  すると、今にも消え入りそうな声が、インターホンごしに聞こえ、2人は顔を見合わせる。 「すみません、飯田さんのお宅で間違いありませんか」 「そう、ですけど」 「私、秋桜事務所の咲本 友奈と申しますが」  ガチャン、名乗った瞬間にインターホンが切られた。その場が一瞬、静まり返る。 「え? 切られた?」 「切られたね」 「……何で?」 「分からない」  友奈は不服そうに口をへの字に曲げる。インターホンを押すのだけで、どれだけの勇気を振り絞ったことか。私の頑張りを返せ。そんな事を思いながら、友奈はもう1度インターホンを押してみる。  しかし、飯田はいくら待っても出なかった。あからさまにイライラとしだした友奈に、穂村はオロオロと視線をさ迷わせる。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!