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「と言うか、車がないと困る!」
「あ、あぁ、うん。友奈ちゃん免許持ってないもんね」
「うん、運転よろしく」
「足が欲しがっただけ?」
「うん!」
「素直」
穂村は、がっくりと肩を落とした。それに、友奈は不思議そうに首を傾げる。
「そんなに嫌なら電車で行くけど」
「いや、行く!」
「そう?」
「うん。だって、男の家に行くんでしょ」
「言い方。別に変な事なんて起こんないよ」
「分からないでしょ!」
友奈は何処か呆れたように、溜息を吐き出す。そして、諦めたように笑った。
「穂村くんは、過保護なんだよ」
「友奈ちゃんが、無防備過ぎるの」
「そうかな?」
「そうだよ」
なんて、会話をしながら2人は穂村の家を出て、車に乗り込む。車のエンジンをかけた穂村は、友奈に視線をやった。
「どっちから行くの?」
「遠い方から行こっか。タレントの飯田 明希(イイダ メイキ)」
「ん、分かった」
穂村は、書類に書かれている飯田 明希のマンションへ向かって、車を走らせた。
******
咲本 友奈は、恐る恐ると目の前のボタンを押した。ピンポーンと鳴ったマンションインターホンの音に、落ち着きなく前髪を触る。閉ざされた硝子の扉は、中から開けてもらわなければならず、このままでは部屋の前にさえ行けない。
「出ない……」
「そうだね」
しかし、いくら待っても返事は返ってこない。友奈は、もう1度インターホンを鳴らした。
「…………は、い」
すると、今にも消え入りそうな声が、インターホンごしに聞こえ、2人は顔を見合わせる。
「すみません、飯田さんのお宅で間違いありませんか」
「そう、ですけど」
「私、秋桜事務所の咲本 友奈と申しますが」
ガチャン、名乗った瞬間にインターホンが切られた。その場が一瞬、静まり返る。
「え? 切られた?」
「切られたね」
「……何で?」
「分からない」
友奈は不服そうに口をへの字に曲げる。インターホンを押すのだけで、どれだけの勇気を振り絞ったことか。私の頑張りを返せ。そんな事を思いながら、友奈はもう1度インターホンを押してみる。
しかし、飯田はいくら待っても出なかった。あからさまにイライラとしだした友奈に、穂村はオロオロと視線をさ迷わせる。
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