生はまこと面倒に尽きる

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  「え……っと、 あ、そう。映画」 『誘われたってことだよね。 行けば?』 さっきの勢いは すっかりなりをひそめ、 冷めた口調で千佳は言った。 たぶん彼女が食いついたのは “顔がいい”という 一点だけだ。 冷静になってくれるのは ありがたいけれど、 急に突き放されると 「なんで話そうと 思ったんだっけ」と 戸惑ってしまう。 「……いや、 上司命令とあらばそりゃあ、 行くけど」 『いいじゃん。 男の人とデートなんて、 何年ぶりなの。 ちょっとは潤わないと、 名前の通りほんと枯れるよ』 「木枯らしは 風のことだってば。 別に私が枯れてるわけじゃ」 『はいはい、聞き飽きた』 千佳はふっと 笑いを漏らした。 たぶん電話の向こうで 肩をすくめている。 .
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