生はまこと面倒に尽きる

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  言われるままに コーラを受け取り、 居心地の悪い空気を 引きずりながら シアターの座席に 腰を下ろした。 そこそこ混みあった シアター内が少し暗くなり、 CMが流れ始める。 それでも隣の上司との 噛み合わない空気に 自分の間が持たなくて、 意味なくストローに 口をつけ舐めるように コーラを飲んだ。 この数年、 ゆるキャラ的な人気を誇る 映画泥棒の映像を見ながら、 なんとなく 諦めの気分になる。 この不毛な時間は、 映画が終わるまでの 辛抱だ、と。 すると瑞島さんは 座席に深く座り直し、 私に顔を寄せてきた。 「(木枯さん、 3列先の人、見えますか)」 「え」 声を潰して ささやきかけてくるせいか、 瑞島さんの声は いつものそれより ぐっと低くて艶っぽい。 .
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