生はまこと野放図に尽きる

2/52
1029人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
  てっきり煙草など 嗜まないものだと 思っていたのに、 緊張感が霧散するなり 桃さまは私を連れて 喫煙スペースにやってきた。 彼は見慣れない箱から、 巻紙が茶色になっている 煙草を1本取り出し、 不機嫌な顔で その先に火を点ける。 深く一服してから、 桃さまは私を じろりと見た。 「すみません、 わざわざご足労いただいて」 「え……あ、はい。 あの、大丈夫です」 ──桃さまは 映画が終わったのち、 女子高生を連れた佐竹さんを 唯一の出口でいきなり 腕を掴んで呼び止めたのだ。 仕事中には まず選ばないようなコートを 桃さまが着ていたせいか、 佐竹さんは一瞬 彼のことを 認識できなかったようで、 あからさまに不審な顔をした。 .
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!