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てっきり煙草など
嗜まないものだと
思っていたのに、
緊張感が霧散するなり
桃さまは私を連れて
喫煙スペースにやってきた。
彼は見慣れない箱から、
巻紙が茶色になっている
煙草を1本取り出し、
不機嫌な顔で
その先に火を点ける。
深く一服してから、
桃さまは私を
じろりと見た。
「すみません、
わざわざご足労いただいて」
「え……あ、はい。
あの、大丈夫です」
──桃さまは
映画が終わったのち、
女子高生を連れた佐竹さんを
唯一の出口でいきなり
腕を掴んで呼び止めたのだ。
仕事中には
まず選ばないようなコートを
桃さまが着ていたせいか、
佐竹さんは一瞬
彼のことを
認識できなかったようで、
あからさまに不審な顔をした。
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