生はまこと野放図に尽きる

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  「下野部長は 僕のそうした性分を よくご存知なので、 今回のことを頼まれました」 灰皿の 真っ暗い奥深くまで 目線を落としながら、 桃さまは溜め息混じりに つぶやき落とした。 「あの、 ひとりで佐竹さんに 会うのが心配だった……って、 どういうことですか?」 桃さまの事情は なんとなくわかったけれど、 だからと言って 休日に私が駆り出される理由が いまいちわからなかった。 ああいう場には 女がいたほうが 少しましに収まるってことは、 経験上わかるけれど。 桃さまは灰皿の奥を 見つめたまま 何度かまばたきをする。 ゆっくりと 持ち上げられた瞳には、 目に映るもの以上の黒さが どろんと沈んでいた。 .
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