生はまこと野放図に尽きる

11/52
前へ
/98ページ
次へ
  思わず絶句した。 「自分の理性の強さには 自信がありますが、 それでも保険は欲しくて。 連れがいれば、 ついうっかり なんてこともないので」 「あるわけないじゃないですか、 そんなこと」 咄嗟に出た声が 震えてしまった。 今、わかった。 この人と同じことで 頷くのはいやだと思った理由。 桃さまは私を見つめて、 まばたきもせずに ふっと低く笑う。 「人間だって動物ですよ。 無垢な衝動への耐性は いくつになっても つきません」 ……頷けば頷いた分だけ、 私の心が この人で汚される。 理屈じゃなく、 本能でそう感じた。 この人── きれいな所作で、 きれいな顔して、 きれいな声と言葉で 話すけれど、 身体の中には とてつもない 汚毒が詰まっている。 .
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1030人が本棚に入れています
本棚に追加