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「だって、
もうとにかく
早く帰りたくて」
「なんなのよ、上司でしょ。
お茶でもして、
ちょっと仲良くなって
帰ってくればいいじゃないの」
「無理。絶対、無理」
桃さまの
黒い瞳を思い出して、
ぞわわと鳥肌が立った。
いや、きれいなの。
きれいなんだ。
真っ黒く濁った瞳そのものは。
一人前の男たるもの、
夢見る少女じゃあるまいし、
瞳をキラキラさせておく
必要なんてない。
混沌とした社会で
戦いながら色々経験した
男の目は、
死んでいるのがいい。
疲れて
くたびれているのがいい。
そのほうが色っぽい。
そんな違いが
わかる程度には、
私だって大人のはず──
なんだけど。
「ずぶずぶに汚れるって
わかってて、
ドブに入りたがる
女はいないと思わない?」
.
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