現代

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それは、何もない場所であった。 本当に何もない。 何も、ない。 福島県本宮市の人取橋古戦場跡。 私は、何気なく電車を乗り継ぎ、現地で車を借りてこの地へとやってきた。 たった、七〇〇〇人が三〇〇〇〇人もの軍とここで戦を繰り広げる。 伊達政宗の軍が、 それに敵対した常陸の佐竹、会津の芦名の連合軍と。 あの時、伊達政宗は何を思ったのか。 自分の運命は、命は、ここまでと思ったのか。 あの時、片倉景綱はここで何を思ったのか。 そして、殿として… 最期を迎えた、鬼庭良直は…? 古戦場を私は一人で歩いた。 ただ広いこの地を歩き、空を見上げる。 あの時、空はどんな色だったのか。 雲はどんな風に流れていたのか。 そして、この地は血に染まったのか…。 どれだけの人がこの地で命を落としたのか。 たった一人の主君のためなのか、 それとも家族のためだったのか? 「何を、考えて殿など貴方は務めてしまったのですか?」 自光院殿劔外参心大居士 これは、鬼庭良直の戒名であり、彼はこの地に眠っていた。 何を考えて、その老体に鞭を打って、戦ったのか。 何を思って、最期まで伊達に仕え続けたのか? 「何を思って、逃がそうとしたのでしょうか…。本当に。」
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